転職市場で「強みを活かす」という言葉がありふれていますが、わたしはこの「強み」にこだわるのをやめることにしました。こだわるのは「持ち味」にすることにしました。「強み」はどうしても誰かと比較しちゃうし、「あの人に比べるとそんな強みでもないな…」とネガティブに考えてしまうので、わたしにとって良い言葉でないと気付いたからです。
考え込む前に、まずは言葉のお勉強
「強み」に似た言葉では、「持ち味」というのがわたしにしっくりきたのですが、「長所」もよく使われる言葉です。それぞれどんな違いがあるか、前提を合わせておきましょう。
定義
- 長所(ちょうしょ):周囲と比べたときに優れている特質
- 強み(つよみ):特定の分野や状況で優れた成果を出せる能力やスキル
- 持ち味(もちあじ):個性やセンスなど、その人らしさを表す独自の魅力
特徴
項目 | 評価基準 | 発展性 | 活用場面 |
---|---|---|---|
長所 | 客観的、他者比較 | 維持・活用が中心 | 組織やチームへの貢献 |
強み | 特定分野や状況での成果 | 継続的な鍛錬・向上が可能 | 専門性の深化やキャリア構築 |
持ち味 | 個性や独自性 | 自然体での表現が中心 | 信頼関係の構築や個人ブランディング |
主な違い
- 長所と強みは他人との比較を含むことがあるが、持ち味は他人との比較を必要としない
- 長所には「短所」、強みには「弱み」という対義語があるが、持ち味には対義語がない
言葉の深堀り
上段の説明のとおり、それぞれの意味があって、ちゃんと違うことを指しているのが理解できました。これらを使っている場面から、もう少し具体的に考えてみます。
「長所」について、もっと考えてみる
長所には短所という対義語がありますが、あなたの長所は短所でもありませんか?たとえば、「粘り強い」という長所を挙げる人でも、粘り強いシーンもあれば、あっさりやめるシーンもありませんか?
わたしは「優しい」という点を長所だと思っていますが、それは自分の身近な人に対して「優しい」だけなのです。他人の迷惑を顧みず、自分のことばかり主張して、利益を得るような人に対して、わたしは優しくできません。そのような場に居合わせた人がわたしを見たら「優しい」とは思わないでしょう。だからわたしは「優しい」長所もあるし、「優しさにムラがある」短所があると自覚しています。でも、「大事な人にしか優しくしない」こと自体は、自分の優しさエネルギーを適切に配分できているので、やっぱり長所なのかなとも思います。
つまり、長所は短所でもあり、その逆でもあり、その両面である、というのが持論です。「あの人のことは、こういうところは大好きだけど、ああいうところが大嫌い」みたいに、アンビバレントな感情を持っている方が人間らしいと思いますし、わたしはその振れ幅が大きい方がおもしろいんじゃないかなと思います。
そうすると、「長所」ってものが絶対的なものではない、というのがわかりました。
「強み」について、もっと考えてみる
さて、転職活動における強みについて考えてみます。
「強みは特定の職務や役割に対して自分がどのように貢献できるかを示す」ため、具体的なエピソードと共に自己PRとして使うことが多いです。でも、その具体的なエピソードからわかる強みというのは、他の会社でも同様に発揮できるものでしょうか?
たとえば、
計画性があることがわたしの強みです。午前に思考系業務をして、午後に体を使う業務をします。自分で計画を立てて、時間をうまくコントロールできることで、より効率的で高いクオリティのアウトプットを出せます。
このような強みをもっている方が、「俺の指示が絶対。俺のスケジュール前提でチームは動くべき。」と考える上司の下に配属されたらうまくいくでしょうか?
恐らく、上司と合わなくて離職されてしまうことになると思います。
強みは場所や環境によって発揮できるかどうか左右されますが、そこに人間関係も影響することを忘れてはいけません。つまり、「強み」がどんなに魅力的なものだったとしても、その強みを活かせる組織でなければ意味がないということです。
採用する方が「こんな強みを持っている人が欲しい!」と言っても、現場レベルにそれを活かせる場所や環境がなければ、「強みを活かす」ことは難しいですね。
つまり、強みを活かせるかどうか、はあなたのみにかかっているわけではなく、会社側の方に比重がありそうです。
「持ち味」について、もっと考えてみる
「強み」という言葉に疑問を持ち、似たような言葉を探してピンときたのが「持ち味」でした。上段の説明の通り、他人との比較がないこと・対義語がないことが、一番納得した点でした。
「自分らしく働きたい」と考えたときに、
- わたしの強みは何だろう?
- 得意とすることは何だろう?
- 時間を忘れて没頭することは何だろう?
そんな風に考えて、これかな?と思えるものが挙げられたのですが、それを発信するために情報を集めていくと、「あれ?…わたしより全然できる人がいるから、わたしがこれを発信する意味ってなんだろう?」、「わたしの言葉で発信することに意味があるというけれど…」と、自分の「強み」に対する疑念が払拭できなくなってしまいました。
そればかりか、「わたしは美容が好きだから美容系YouTuberになる!」という友だちがうらやましくなって、「わたしはやりたいことに名前がつけられない」、「これまでの経験でもxx職と言えるものがない」ということで落ち込んでしまいました。
この話を10年以上通っている整体の先生に話したところ、
- xx職みたいにわかりやすい名前がないとダメですか?
- 名前がついていないということは、それだけ制限されないというメリットがありますよ
- 職業に本質があるわけではありません。何のために働くのか、あなたは自分のことがわかっていますよね?それが実現できることの方が本質ではないですか?
- あなたがやりたいことの本質が「周りの人を幸せにする」であれば、それがあなたらしさですよ。どうしても名前が欲しいのなら「職業:人間」でいいんじゃないでしょうか
こんな風に言われました。わたしはどうしようもなく泣いてしまいました。
他の人には「あなたはすごい人なのですよ。ああやって、わたしのことを助けてくれたじゃないですか!」なんてその人の個性を認めたり、「今のままでも十分素敵ですよ。スキルや経験なんて、これからいくらでも身に着けられます」なんて安心してもらおうとしたのに、自分にはそうできていなかったことに対して、自分に申し訳なくなってしまったのです。
そして、「誰かと比較して自分を語るのはやめよう」と思いました。だから、誰かと比較したり、そこに強弱があるような「長所」や「強み」にこだわるのはやめようと思いました。
よく考えたら昔から自分ってこうだったな、と思う自分、たとえば「困っている人を見ると動揺する自分(手を出せるときもあれば、出せない時もあるので、行動するとは限らないのがミソ)」とか、「人が心から喜んでいる姿を見ると、本当に嬉しくなって涙が出てしまう自分」とか、そういうところが本来の自然な自分の姿なのだと気付きました。そして、そういう自分に気付くと、くすぐったかったり、守ってあげたくなりました。
それが良いとも悪いとも評価されるものではなく、単なる「自分らしさ」。言い換えるとそれが「持ち味」なんだなと納得しました。
どう活かしていくか
「長所」・「強み」・「持ち味」の特徴を理解したうえで、それぞれに対して自分はどうだろうか?と内面を深く観察していくことが、「自分らしさ」を知るために重要なのだと思います。
特に「持ち味」は、あなたの本質であり、核となる部分であるため、まずはここを知ることが「自分らしく働く」ために追求するべきところです。
わたしは「周りの人を幸せにしたい」という本質があり、「がんばっている人が報われない状況を見ると腹立たしく思えるし、自分にできることはやりたい」と行動する自分を知っています。だから、「人を駒のように扱う組織にはいたくない」と思いますし、「正しく評価しようとしない上司を放置する組織は嫌だ」と思います。そうすると、わたしにとって重要なのは、「どんな仕事に就くか」ではなく、「どのような組織づくりをしているか、社員がどのように働けているか」を聞いて、自分が納得できるかどうかなのです。年収がいくらとか、どんな仕事内容か、を無視するわけではありませんが、わたしが転職活動で重視するポイントはそういう点です。
こうやって、わたしは自分のことをいつも考えていて、自分らしさを追求してきているので、自分の重視するポイントがわかり、納得して転職活動ができました。
だから、もし転職活動で「いい企業と出会えない」とか、「自分の強みが活かせる仕事がわからない」と困っているのならば、「持ち味」について考えてみるのはいかがでしょうか?そして、それを納得できる言葉にしてください。あなたらしく働くためには、あなたらしさを言葉で表現できるようになってください。そのズレが少ないほど、あなたに合う会社と出会えるとわたしは確信しています。